新国立劇場で観るびわ湖ホールのクルト・ワイル「三文オペラ」

7月14日、新国立劇場中劇場。

新国立劇場では、地域招聘公演と称して、地方のめぼしいオペラのプロダクションを招いて上演する、という企画を継続的にやっているらしい。そのこと自体、とてもすばらしいことだ。

新国立劇場からは、ここしばらく足が遠のいていたけれど、びわ湖ホールの「三文オペラ」という道具立てに、思わずそそられて足を運んだ。結果は、大正解。十二分に堪能できた。

びわ湖ホールには、一度だけ行ったことがある。2008年の夏。小澤征爾音楽塾プロジェクトの喜歌劇こうもり。

びわ湖ホールの評判は、若杉弘さんの音楽監督としての手腕と共に、随分聞かされていた。一度、行きたいと思っていたが、横浜在住の身としては、おいそれと行けるわけでもない。結構思い切った決断をして、出かけたのだった。

その時、もちろん、小澤さんの指揮も、オーケストラやキャストの若々しい演奏も、素晴らしかったのだけれど、一番、感銘を受けたのは、その観客の質の高さだった。スノッビズムとか教養主義とか言って笑われるかも知れないが、拍手の絶妙なタイミングからして、おおおっ、この人たちは本当にオペラのことが分かっていて、その上で、心から楽しんでいるんだなあ、というのが伝わってきた。インターミッションのおりの華やいだそぞろ歩きも、また板について見えた。

若杉弘さんが10年間かけて、まさに手塩に掛けて育てた聴衆なのだ、という感慨を覚えた。このこうもり公演の時点で、若杉さんは、びわ湖ホールから新国立劇場の音楽監督に移っておられたが。若杉さんの後任には、まさに気鋭の沼尻竜典さんが就任していた。

そう言えば、ずっと以前、1993年に藤沢市民オペラで若杉さんがトゥーランドットを指揮された折、沼尻さんも副指揮者として参画していたように記憶している。

そんなやかやで、ぼくは、びわ湖ホールには、一度きりしか行っていないにもかかわらず、曰く言いがたい親しみと尊敬の念を持っている。

三文オペラ。じつは、ぼくは、このオペラ(というか劇)を観たことがなかった。以前、従兄弟の矢野誠と、どういうわけか音楽談義になって、オペラやオペレッタがブロードウェイのミュージカルとどうつながっているか、みたいな話題になり、誠が、「かぎは、ワイルの三文オペラだよ」とえらく断定的に言っていたことが、印象深く記憶に残っていた。

三文オペラを知るのにも、いい機会だなあ、と思った次第。

素晴らしい上演だった。びわ湖ホール、やってくれるね、みたいな。

しっかりした歌唱力だけではなく、ブレヒト作の劇作品としても、地の台詞の端々まで神経が行き届いていたし、舞台も簡にして過不足のない作りだった。演出が、藤沢市民オペラとも縁の深かった栗山昌良さんというのもうなずける。

ブレヒト(とワイル)が仕込んだ、オペラという様式に対する毒のあるパロディも感じることが出来た。フィナーレなど、もう、バロック時代の教訓オペラそのもの(言っていることは真逆だけれど)。ふと、ヴェルディのオテロで、イヤーゴが歌う、悪のクレドを思い浮かべたりして。

2014年のシーズンからは、新国立劇場の公演も、いくつかは観に行こうと思っている。そして、機会があれば、ぜひ、またびわ湖ホールにも行きたいなあ。

 

 

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